「俺の名はザック・コルデシー。
この辺じゃ名の知れた盗賊集団【深緑の薔薇】の頭やってんだ。よろしくな。」


不敵に笑う男を見てアリスは盗賊だという言葉に納得がいった。

まずその出で立ち。
荒々しい態度に言葉遣い。

それにまるで包帯のように巻きつけたターバンのようなもの。
そこから漏れる髪の毛、その不衛生さ。

どこからどう見ても賊か何かにしか見えない。


「この国の名は【フェム=イニーネ】。
何のしがらみも無い平和な国だ。」


「【フェム=イニーネ】?」


アリスはハニーに問いかける。

既に猿轡も拘束も解かれ、アリスはある程度の自由はきくようになった。


「フェム国ならば何度か来た事があります。
おそらくここは宵の勢力でも無ければ暁の勢力でもない、言わば中立国。
もしかしたらこちらに引き込むことが出来るやも知れません。」


「そこの野うさぎは想像以上に賢いみてぇだな。」


ザックがにやりと笑った。


「そう、ここは中立国の上に何の争いも無い国だ。
けれどある小さな蟠りの種が出てきてる。

それが王位継承問題よ。」


「王位継承・・・?この国は常々国王が治めてきたのではないか?
もしや跡継ぎに恵まれなかったか・・・。」


「勘が鋭いな。そう、王にご子息が生まれなかったのさ。
生まれたのは二人の女の子の双子だけ。

その双子のどちらが王位を継承するかって話でこの国は持ちきりなのさ。」


あまりにも飛躍しすぎた話なのでアリスはついていくのがやっとだった。

それと自分達が何の関係があるのだろう・・・。



「そこで俺はお前達にある仕事を手伝って欲しいんだよ。
何、難しいことは言わねぇ。




その双子の片割れを、誘拐したいだけさ。」