大丈夫。これでいい。
「──ごめん真田、ちょっと倉木借りてもいい?」
じっ、と私のことを見ていた八千代くんは、不意にそう言った。
かき上げられていた前髪がはらりと崩れて、その様子をぼうっと見ていたら、
いきなり腕を引っ張られた。
もちろん、八千代くんに。
「すぐに戻るから」
「「えっ?」」
梢と声が重なって、私は八千代くんにぐんっと引っ張られて。
引っ張られるがまま着いた場所は、校舎裏だった。
「あの、八千代くん」
「どっちがいい?」
「え」
八千代くんに触れられている場所が、じわじわ熱くなってきて、
それが頬にまで伝わってくるのを感じる。
「前髪こーやって上げるのと、おろしてるの。どっち?」

