八千代 梓希くんは、いつも教室の隅で静かに本を読んでいる。
本には黒色の革のカバーがされていて、それは随分と使い古されている。
八千代くんのそんな姿を見るたびに、あぁ本が好きなんだなぁって思ってた。
物静かで、大きな声を出したり、取っ組み合ってふざけたりもしない。
知的で、頭も良くて、周りの男子と比べると飛び抜けて大人っぽい。
目が合うと小首を傾げて柔らかく笑う。
その仕草がまたどこか優雅で、素敵。
『八千代くんを横から見た時のね、おでこと鼻と唇のラインがね、びっくりするほど綺麗なの』
『はいはい。あんたは八千代を見るたびにいっつも同じこと言うんだから』
前に梢にそう言われてから口には出さないようにしてたけど、
やっぱり誰かに八千代くんの素晴らしさについて語りたい。
そのぐらい、私は八千代くんを推している。
パッとしないとか、地味めだとか。
他の子はよくそう言うけれど、そんなことない。