たったこれだけでもう色々と限界なのに、彼はさらに私の耳元に唇を寄せるから。
微かに唇が当たって、
八千代くんの温もりを感じて。
あたま、真っ白になる……
「彼女でもない人とでも、こーいうことは意外と出来ちゃうんだよ」
するり、私の首筋に軽く触れ、離れぎわに八千代くんは意地悪く笑った。
「……なんてね。」
私が知っているのは、教室の隅で静かに本を読んでいる八千代くん。
こんな、不用意に近づいてはいけないような、アブない雰囲気をまとった八千代くんなんて、
私は知らない。
「首のとこ、勝手に触ってごめんね」
ハッとして慌てて八千代くんと距離をとる。
触れられた首筋に手を当て、大きく息を吐き出した。
八千代くんのオーラに、息、するの忘れてた……
「倉木って、案外抜けてるよね」
少し困ったように、八千代くんが笑う。
ぬ、抜けてる……のかな、そんなこと初めて言われた。

