そう言って、私の前を通り過ぎた瞬間、八千代くんの匂いがふわりと香った。


香水なのか、柔軟剤なのか分からないけれど、彼の笑った顔みたいに柔らかい匂いだった。



もっと、八千代くんとお近づきになりたい。
なっても、いいかな……。


いつもどんな本を読んでいるのかな。好きな食べ物は?色は?

どんなことに興味を持って、どんな風に物を考えるの?




『はぁ、八千代くんのキスマークが気になって午後の授業集中出来ない』

『本人に聞けば良いじゃん』




──気付いたら、私は八千代くんの腕を掴んでいて。




「八千代くんって、彼女いるの?」




気付いたら、とんでもないことを聞いていた。


ぱちぱち、八千代くんも私も驚きで瞬きを繰り返してる。

……これ、やっちゃった?取り返しのつかないこと聞いちゃった?




「……彼女?」

「あ、その、キスマーク付けたりする彼女、とか……」