机の引き出しの中から例のブックカバーのついた文庫本を取り出して、八千代くんは目を細めた。
「今思えば、ただ寂しかっただけなのかも。誰のものでもないと思ってた百合さんが、急に仁のものになったから」
「……」
「でも、今日、仁と一緒になって笑ってる百合さんを見て、素直に2人の幸せを願いたいって思った」
「誰かさんに影響されたのかもね」と、八千代くんは笑う。
……そっか。
八千代くんは、百合さんのことを前向きに、静かに、諦めたんだね。
「……なにも、力になれなくて、ごめんね」
ごめんね、八千代くん。
「なんで?倉木がいなかったら、多分俺もっと拗れてたよ」
「でも、」
「頑張るきっかけを作ってくれたのも倉木でしょ。だからありがとう」