……けれど、そこに後藤くんはいなかった。

代わりに、窓側の席で優雅に本を読む八千代くんが1人。




「え」




えっと、どうして八千代くんがいるんだろう。面談の日、もっと後じゃなかったっけ。


ていうか、八千代くんがまだいるなんて聞いてない。
教室でたった1人で読書してるだけでこんなに画になる?


運が良すぎる。

私今、八千代くんのこと独り占めしてる。





「倉木」





八千代くんの澄んだ瞳がいつの間にか私を捉えている。

形の良いその唇から、聞き心地の良い声音で私の名前が呼ばれたのは気のせい?




「倉木?」

「……気のせいじゃない……」

「はは。大丈夫そ?」




目を細めて可笑しそうに八千代くんは笑った。
彼の笑顔が、今私だけに向けられていることが奇跡みたいだ。


やばい。やばいやばい。