千早くんは、容赦が無い

 だってそんなことあり得ない。

 私はあの日、桜子に頼まれて「ちぇりー」のふりをして千早くんと会うまで、彼のことを知らなかった。

 そう、私と千早くんはそれまで関わりなんてなかった。

 だから千早くんが私を好きだなんて、ありえないはず。

「嘘……でしょ?」

 半信半疑で尋ねる。

 客観的に考えると、やっぱりそんなことあるはずない。

 だけど私を見つめる瞳にはとても真っすぐな光が宿っていて。

 千早くんが嘘を言っているようには、とてもじゃないけど見えなかった。

「嘘じゃないよ。ほんと」

「で、でも……。私は千早くんのことあの日まで知らなかったよ? 千早くんも、そんな感じだったじゃん……」

「あー、やっぱり亜澄は覚えてないかあ。まあ、俺も昔のことは無かったことにしたくて、そういう風に振る舞ったんだけどさ」

「え、え……? どういうことなの?」

 私が覚えてない……?

 じゃあやっぱり、私たちは以前に出会っていたということ?

 だけど頑張って記憶を漁ってみても、やっぱり千早くんに関わることは最近の出来事しか出てこない。