千早くんと一緒に帰るのは、やっぱり楽しかった。

 授業のこと、友達のこと、今度ふたりで出かけるデートの相談。

 他愛のない話しかしていないのに、千早くんの仕草や言葉のひとつひとつにキュンキュンしてしまう。

 その上、千早くんが不意に「亜澄のそういうとこ、やっぱかわいい」なんて言ってくるものだから、私は性懲りもなくドキドキしてしまう。

 また、とろい私に合わせてさりげなく歩幅を合わせてくれたり、自然と車道側を歩いてくれたりしてくれる。
 
 千早くんは、本当に完璧でかっこよくて優しい彼氏だ。

 ――だけど。

「あー。やっぱり言えなかった……」

 千早くんと別れた後、自宅に向かいながらため息交じりに独り言を言ってしまう私。

 私が『ちぇりー』じゃないってこと、今日こそは言おうと思っていたのに。

 千早くんの楽しそうな顔を見ると、ついしり込みしてしまう。

 でも、いつかは言わないといけないよね……。

 そう考えていたら、スクールバッグがいつもより重いことに気づいた。

 あ、そうだ。

 千早くんに借りてた本、読み終わったから今日返す予定だったんだ。