千早くんのことが、大好きなのだから。

 ……さすがにその気持ちは、言葉に出しはしなかったけれど。

 私は陸の前にいるのが耐えられなくなって、彼に背を向けて家を向かって勢いよく走りだしてしまう。

「あ、亜澄っ」

 陸はそんな私に心配そうな声で呼びかけるけれど、私は振り返らずに走り去った。

 そしてそのままの勢いで自宅へと飛び込む。

 玄関のドアを閉めて、私はその場でしゃがみ込んでしまう。

 陸は私のことを追いかけることはできたとは思うけれど、ドアの外にそんな気配は無かった。

 走ったことで息が上がってしまった私は、それを落ち着かせるように自分自身を抱きしめる。

 昂った気持ちも、徐々に鎮まってきた。

 陸に悪いことをしちゃったかもしれないと反省するのと同時に、私の中に浮かんだのは。

 ……千早くん。

 陸が言っている千早くんは、本当に千早くんなの……?

 どうしても、私の知っていると千早くんと結びつかないよ。

 一年生の時の千早くんの身に、サッカー部を辞めて荒れた生活を送りたくなるような、出来事でもあったのかな……。