部活に持って行っていたらしい荷物をリビングの隅に置く麗奈は、俯いている。

 長い髪が頬を隠し、その表情は見えない。

 明らかに様子がおかしい。

 いつも意志の強そうな目をパチッと開いて前を見ている麗奈が、下を向いている。

 ――そうだ、そういえば。

 麗奈この前、部活があるはずの時間に、河川敷でひとりでクラリネットを吹いていた。

 最近ずっと気にかけていたけれど、家では元気そうにしているし、今日は千早くんのことで頭がいっぱいで、つい失念していた。

「麗奈、どうしたの?」

 心配になった私は、麗奈の方へと駆け寄る。

「……なんでもないよ」

 麗奈は下を向いたまま、低い声で答える。

 いつもははきはきとした声で喋る麗奈の、らしくない声音。

「様子がおかしいよ。何かあったんでしょ……?」
 
「なんでもないったら」

「……私、この前見たんだ。部活があるはずの時間に、麗奈がひとりで河川敷で練習してたの」

「え……!」

 麗奈は驚いたように声を漏らし、顔を上げた。

 大きな瞳は真っ赤に充血し、頬には涙が流れたらしい跡がついていた。

「麗奈、泣いてたの!?」