【一織SIDE】


 
「一織、今回の犯人の一人が、麻薬取引に関与してる可能性がある」

「え?……麻薬取引?」
 
 潜入捜査が始まる二週間前、マトリ(麻薬取締官)の同期からそんなことを言われた。

「ああ、一織たちが暴行事件で逮捕した、あの矢崎(やざき)って男だ」

「え、矢崎が?」

 俺の同期、マトリ(麻薬取締官)の角田(つのだ)。
 角田とは警察学校の同級生だった。角田はマトリに、俺は捜査二課に配属された。

「調べたら、矢崎をパシリとして動かしていた男がいたことが分かったんだ」

「動かしていた? それって……裏で密売組織が絡んでるってことか?」

 もしそうだとしたら、矢崎は暴行罪だけでなく、もっと思い罪に問われる可能性が出てくる。

「まだ分からない。 でもその可能性は、高いと思う。矢崎だけじゃなく、他にも密売組織と絡んでるヤツらがいるはずだ」

「……だとしたら、麻薬を流すルートを探す密売人がいるはずだな」

 麻薬の密売や取引は、その場での現行犯逮捕が原則になる。 その場での目撃で麻薬取引が行われていたということが分かって初めて、逮捕出来る。

「矢崎から話を聞きたい。 麻薬の密売人とそのルートを探す」