【麻衣SIDE】



「麻衣……!危ないから、やめてくれって!」

 犯人にそっと近寄る私の背中に、一織の声が響いていく。

「おい、止まれ! 止まれって言ってんだろ!?」

 犯人は私にナイフを向けたまま、そう叫んでいる。

「お願いです。その人を離してください」

 そして私は、ナイフを向ける犯人にそうお願いをした。

「はあ?だから離さないって言ってるだろっ!」

「その代わり、私が人質になります!……だからその人を開放してあげてくれませんか?」
 
 私は犯人の男性に、再びそうお願いをした。

「ほう……。お前が人質になるってか?」

「はい。 だからその人は、離してください」

 この人はなんの罪のない人だ。 だからこんな目に遭わせてほしくなんてないの。
 私には、一織がいる。 世界で一番、頼りになる彼氏が。
 
「……いいだろ。 ならお前を人質にする」

「お願いです。その人には、何もしないと約束してください」

「分かった。 ほら、行けよ!」

 犯人の男性は、約束通り人質の女性を開放した。 そして私を、人質にする。

「麻衣!」
 
 離れた場所から、一織の悲しそうな顔が見える。