「ん、水」

「あ、あ……ありがとうございます」


 不躾に差し出されたペットボトルを手に取って、私はぎこちなく頭を下げる。

 ひんやりと冷たい水を口に含んで、私は一息つく。幾らか頭がすっきりとした。
 冷静さを取り戻した私は、膝の上に置いたペットボトルの持つ手を強めた。


 ……いや、馬鹿すぎるだろ私……。
 自己管理もできずに成瀬くんに迷惑かけて……、ああもう、穴があったら入りたい……。


 昼時を過ぎた映画館は、どの映画も上映中なのだろう、飲食売り場の辺りに何人か並んでいるものの、それほど客は多くはなかった。

 館内の隅っこにある休憩スペースで椅子に腰かけた私は、ちらりと隣を覗き見た。

 すらりと長い足を組んで気だるげに頬杖をつく成瀬くんは、黒と白だけでまとめたシンプルな服装がよく似あっていた。服装に合わせたピアスも何気にセンスがいい。

 ……スタイルがいい人は何着ても様になるって、ほんとなんだなぁ。

 成瀬くんの前を通る女性たちがこちらを見ては、色めきだっているし。

 一人も近づいてこないのは私がいるっていうよりかは、単に近寄りがたい雰囲気があるからだろう。顔怖いし。威圧感すごいし。

 余りにじっと見つめすぎたせいか、視線に気づいた成瀬くんがこてんと首を傾けた。


「なに?」

「アッ……いや……その(い、言えない! 見惚れてましたなんて口が裂けても!)」


 私は視線を泳がせて、それから小声で謝る。


「ごめんなさい。私のせいで、映画の時間帯遅れて……」


 おかげでお昼ご飯は食べ損ね、15時からという、微妙な時間帯のやつを見る羽目になってしまった。
 終わるのは夕方だろうから、本当に映画を見て帰るだけだ。

 成瀬くんは、ああ、と区切って続けた。


「いーよ、そんなの。それより、体調は?」

「……だいぶよくなりました」

「ならいい」


 ……あ。また、笑った。

 成瀬くんが何を考えてるのか、分からない。

 いつも後ろから睨んでくるのは何だったのかとか、それなのにどうして私の告白を受けたのかとか、私をデートに誘ったのは何でなのか、とか……ほんとは全部、単純な理由なんじゃないかと思ってしまう。

 ねえ。ひょっとして、成瀬くんは──