初めてのデート。

 彼氏いない歴=年齢だった私が憧れないわけがない!
 少女漫画で読んだあの、デートよ!?

 好きな人を思い浮かべながら少しでも可愛いって思ってもらいたくて服選びに悩んだり、学校ではしない少し気合の入ったメイクしてみたり、ちょっと背伸びして踵の高い靴を履いてみたり。

 それで着飾った私を見て彼は顔を赤くして──なんて、甘い展開は一切なかった。



 揺れる電車の中。
 すぐ近くに感じる平均より少し低い体温。私を守るみたいに立つ彼の腕が顔のすぐ横にある。

 女の子なら一度は憧れる満員電車で男の子(イケメン)に守ってもらうシチュエーションが、今、まさに私の目の前で展開されていた。

 じっとこちらを見下ろす成瀬くんが、心なしかいつもより優しい声音で問いかけてくる。


「……涼森、大丈夫?」

「……あ、……ふぁい……」


 少女漫画のヒロインとは程遠い死にかけの私は、力なく頷いた。


 もちろん、昨日、夜通し悩んでいたのが原因だ。

 どんな格好で成瀬くんに会えばいいのかとか、というかそもそもこれから別れようと画策している人間とデートに行くのは人として終わってないかとか、よく考えたら何にも知らない成瀬くんとふたりきりで何話せばいいの、とか。

 一度不安がよぎったのが運の尽き。
 ネガティブが止められなくなって、いつの間にか夜明け。

 寝不足で目元には隈出来てるし、朝ごはんが喉を通るわけもなく貧血ぎみ。
 成瀬くんとの会話に凄まじい不安を感じて胃がキリキリしている。重ねて満員電車による人酔い。


 ──ああ、神様。
 この最悪のコンディションで、成瀬くんとのデートを無事終えられるでしょうか。