……などと、意気込んでいた私は、今、すでに心が折れかけていた。
 何故ならば──


「涼森、家まで送ってく」


 帰りのHRを終え、未だ生徒が残る教室で、席に座った私を見下ろしながら成瀬くんはそう言った。

 そう、クラスメイトがいる目の前で。なんなら、私の席の前に夏目くんが座っていた。
 今の夏目くんに絶対聞こえた。終わった。


「え、成瀬くんと涼森さんってそういう……」

「いつの間にそんな関係に……」


 クラスメイトたちの突き刺す視線と、こそこそ話す声で、意識を失いかけた私は覚醒する。

 やばいやばい、これは……まずい!

 机に置いた鞄を乱暴にとって、私は成瀬くんの手首を掴む。


「成瀬くんちょっとこっち!」


 私はその手を強引に引っ張って、慌てて教室を後にした。





「はあ、はあ……っ、げほっ」


 人気のない廊下に私の荒い呼吸が響く。
 
 膝に手をついてなんとか呼吸を整える。こんな息を切らしている私とは対照的に、成瀬くんは驚くほど静かだ。

 ふと、私の頭上から平坦な声が降ってくる。


「……涼森、」

「へあ? な、なんで……」

「手が、」

「手?」


 見上げた私の視界に成瀬くんの手首を掴む私の手が映る。


「はっ!? すすすすすすいません!」


 即座に手を離して私は成瀬くんから距離を取った。


「……いや、別に」


 別に、とは決して思っていなさそうな、眉間に皺を寄せた不機嫌フェイスで成瀬くんが呟く。