……などと、意気込んでいた私は、今、すでに心が折れかけていた。
何故ならば──
「涼森、家まで送ってく」
帰りのHRを終え、未だ生徒が残る教室で、席に座った私を見下ろしながら成瀬くんはそう言った。
そう、クラスメイトがいる目の前で。なんなら、私の席の前に夏目くんが座っていた。
今の夏目くんに絶対聞こえた。終わった。
「え、成瀬くんと涼森さんってそういう……」
「いつの間にそんな関係に……」
クラスメイトたちの突き刺す視線と、こそこそ話す声で、意識を失いかけた私は覚醒する。
やばいやばい、これは……まずい!
机に置いた鞄を乱暴にとって、私は成瀬くんの手首を掴む。
「成瀬くんちょっとこっち!」
私はその手を強引に引っ張って、慌てて教室を後にした。
*
「はあ、はあ……っ、げほっ」
人気のない廊下に私の荒い呼吸が響く。
膝に手をついてなんとか呼吸を整える。こんな息を切らしている私とは対照的に、成瀬くんは驚くほど静かだ。
ふと、私の頭上から平坦な声が降ってくる。
「……涼森、」
「へあ? な、なんで……」
「手が、」
「手?」
見上げた私の視界に成瀬くんの手首を掴む私の手が映る。
「はっ!? すすすすすすいません!」
即座に手を離して私は成瀬くんから距離を取った。
「……いや、別に」
別に、とは決して思っていなさそうな、眉間に皺を寄せた不機嫌フェイスで成瀬くんが呟く。



