「もしタイムリープ出来るなら、次は両腕折ってでも完璧に受け止める……絶対」

「あはは……(コッ、コワー)」

「涼森に嫌われるくらいなら……いっそ、両腕失った方がマシだ」

「はは……(覚悟ガンギマリすぎでは……?)」

「……やっと、付き合えたのに……前より距離出来てんの、死にたい……」

「エ!?(付き合ってたの!?)」


 ぽろっと漏れたわたしの声に、項垂れる彼の肩がぴくりと揺れた。伏せられていた彼がゆっくりと顔を上げる。


「……あ?」

「ヒッ」


 地獄から這い上がってきた悪魔だと言われたら信じてしまうくらい、キマっている瞳がこちらを向く。

 成瀬くんと同じ段の一番隅っこで縮こまりながら座るわたしは、さらに身を小さくして壁に張り付く勢いで距離を取る。


 ……正直、逃げたい、今すぐここから。というか、立ち去ろうとしてた。
 でも、横を通りすぎる瞬間、成瀬くんが一人で語り始めたせいで、わたしは完全に逃げるタイミングを失ったのである。
 
 そして、今に至る。

 追い込まれた蛙みたいに震えるわたしを一瞥して、成瀬くんは、小さくため息をついた。


「……俺だって、分かってるよ」

「……え?」

「涼森に釣り合ってねーってことくらい」


 呟いた言葉を最後に成瀬くんは押し黙る。拗ねた様に。

 え……何だろう、この感じ。これ、もしかして……わたし、恋愛相談されてる? 
 いやいや、でも、この前昇降口の前でやり取りしてた時の成瀬くん、死ぬほど睨み聞かせてましたけど?
 間に挟まれたわたしが今すぐ逃げたくなるレベルで。恋のこの字も垣間見えない殺伐とした雰囲気をひしひしと肌で感じたのですが?
 
 わたしは恐る恐る問いかける。


「……成瀬くん、涼森さんのこと……好き、なんですか?」


 成瀬くんは、ほんの少し口を開けて、何か言いかけて、それから押し黙って。
 色々のみ込んだ後、聞き取れないほど小さな声で、ぶっきらぼうに言った。


「…………悪いかよ」


 ピアスいっぱいの耳を真っ赤にさせて。