自分でも、わからなかった。
右手の平が、ジンジン痛む。


え━━━━━━

今……

何が……起こった━━━━━?


「━━━━━!!!!?
うわぁぁぁぁーーーーーー!!!!!」
茉莉母が、まるで幼い子どものように泣き叫んだ。

「はっ!!!ご、ごめん!!ごめんな!!?ごめん!!ごめん!!」
必死に抱き締め、背中をさすりなだめる。



その日を境に、茉莉母は心が壊れ、完全に閉ざした。

次の日起きてキッチンに向かうと、茉莉母が包丁で自分の手を切ろうとしていた。

「茉莉母!!やめろ!!」
慌てて、止める。

茉莉母は無表情で俺を見上げ言った。
「お兄さん、誰?」
と━━━━━

「え?な、何…言って……んの?」
そして、キッチン内を見て俺は驚愕した。

床に野菜や肉、魚などが散らばり包丁で乱雑に切り刻まれていたのだ。

「茉莉母、お料理してるの。
お兄さん、食べる?」
「茉莉母?どうしたんだよ……?」

「え?」
「茉莉母、ふざけてんの!?」

「え……お兄さん、どうして怒るの?
茉莉母、悪い子?」
茉莉母の顔があっという間に歪み、泣き出した。

本当に、幼い子どものようだった。


病院に連れていった。

包丁をまるでおもちゃのように扱い、着替えや食事などが自分でできない。
おまけに日によってだが、お漏らしまでするようになったからだ。

もう……何がなんだかわからなかった━━━━━


「精神的な、疾患としか……脳や身体に異常はありません。心に過度な負担がかかり、心を閉ざしていると言えば、わかりやすいかな」

医者が言うにはストレスが一気に爆発し、全てのことから逃避しているそうだ。

俺はただ、見守るしかないと言われた。


「ごめんな、茉莉母。俺が叩いたから……ごめん!!」
何度も謝罪の言葉を並べても、茉莉母は何も反応しなくなった。

茉莉母がこんな風になって初めて、自分の愚かさを知る。
茉莉母が父親から受けていた暴力を俺が犯した。

何度も謝ったところで、その事実は消えない。


それから、俺は茉莉母を全身全霊捧げることを誓った━━━━━━━

それから一年。
俺は茉莉母から、片時も離れず介護をした。

茉莉母がかなり貯金をしてくれていたおかげで、一年は不自由なく二人で生活していけたから。

貯金が底をついた頃、茉莉母は自分のことは自分でできるようになった。

家事ができるようになれば、俺がまた働ける。

しかし、刃物を持たせると自分を傷つけようとする茉莉母。
その為、料理だけはさせないようにし、掃除をさせることにした。

元々掃除が好きだった茉莉母。

その為か掃除道具を準備してやると、完璧に掃除をしてくれる。

そして俺は、また働き出したのだ。