「さて、今度はどんな曲を歌おうかな〜」

とあるマンションの一室、スマホでボカロ曲を検索しながら、メガネをかけたポニーテールの女性が呟く。彼女の名前は緑川真希(みどりかわまき)。会社員をしながら歌い手として活躍している。

「僕のおすすめは、Mr.シャーデンフロイデかな。イラストの表情が自分の絵の参考になるんだよね」

真希がたくさん現れたボカロ曲をスクロールして見ていると、横から羊のようなふんわりとした髪の毛と雰囲気を持った男性が話しかけてくる。彼は深沢夏希(ふかざわなつき)。人気のイラストレーターだ。

「Mr.シャーデンフロイデ、結構好きな曲だけど八人で歌ってるやつじゃん。あたし、両声類じゃないしなぁ……」

真希の声は女性にしてはハスキーな声で、歌う時も他の女性歌い手のような可愛い声ではなく、かっこいい声である。

「男性パートとMEIKOとルカが何とか歌えたとしても、ミクやリンやGUMIみたいな可愛くて綺麗な声は出せないからなぁ」