「教科書追ってて、先生の板書、書ききれてないと思うから」

下校時刻になって、あかねは今日の授業で取ったノートをそう言って玲人に貸した。

「ありがとう。実は凄く助かる」

ホッとしたような笑みは、転校してきてから今まで見せたことのない安心した笑みだった。やっぱりみんなに騒がれてるのが気になってるんだなって分かるのは、あかねが玲人をずっと見てきたファンだからだろうか。

「高橋さんはさ」

渡されたあかねのノートを見ながら玲人が言葉を発した。推しに名前を呼ばれるなんて、夏休みまでのあかねは想像もしていなかった。やわらかくて耳なじみのいい声があかねの鼓膜をくすぐって、全身の血流がマッハの勢いで駆け巡った。ぶわっと汗腺が開いた気がする。

「僕のことを知らないんだよね?」