「でも、この五日間、良くもった方だよ、私の心臓。こんな大事変に長時間対応できるように出来てなかった筈なのに」

「事変て、歴史かよ」

「本当に、冷静を装うのが大変……。ひとつ話し始めちゃったら、絶対に玲人くんをほめたたえる宣伝カーに成り下がる自信あるもん……」

「堂々とほめたたえれば? 今や、学校の中で暁くんを褒めてない子なんて居ないでしょ。『朱に交われば赤くなる』よ。あかね、ここでアピールしないでどうすんの? 暁くんに関するアドバンテージは、この学校のどの生徒よりも、あかねにあると思ったけど」

そう、なのかもしれないんだけど……。

「そうなるとさ……。実質、神と話をすることになるんだけど……、大丈夫かな、私……」

そうなのだ。恐れ多すぎて、声が掛けられない。ファンであったがために、推しの尊さを身に染みて分かっているあかねには、玲人の周りに有象無象と湧いて出てくる生徒たちの心に生えた毛の太さが分からなかった。

今も廊下からキャーワーと歓声が聞こえてくる。漸く玲人が購買部から帰って来たのだと思って、教室の入り口の方を、何気なく見た。とき。