桜が咲く頃に、私は

「い、意外と強引なとこあるんだ。ちょっとドキドキしたけどね。よし、さあこい」


まさかこんな人通りのない道に連れ込まれるとは思わなかったけど……改めてこういう空気になると緊張する。


棒立ちのままでそう言って広瀬と向かい合って待つ。


「う、うん。もう一歩……だね。不思議だね。桜井さんといると、今までの僕じゃ出来なかったことが出来る」


「わ、私だって……こんなこと広瀬だから」


「さ、桜井さん……大好きです」


そう言い、一歩踏み出した広瀬。


抱き寄せられるのを想像して、備えていた私は……その不意の感触に驚いて、何が起こっているのか全くわからなかった。


唇に感じる柔らかい感触。


息が止まる。


少し冷たくて、でもじんわりと温かい。


まるで広瀬と溶け合っているかのように、頭の中が真っ白になって行って、ふわっと意識がなくなりそうになる。


いつも空としている作業的なキスとは違う。


広瀬の気持ちが伝わってくる。


「158」……数字が減った。


そう思うと同時に、私は気付いたら広瀬を突き放していて。


「一歩って言ったのに……バカ」


「え、あ、ご、ごめん……ち、違った? もしかして初めてだったとか……」


「は、初めてじゃないし! わ、私くらいになると、毎日誰かとキスくらいしてるし! でも、なんか……嬉しかったよ。あーもう! 私、帰る! じゃあまた学校でね」


まともに広瀬の顔を見ることも出来ずに、私はその場を離れた。