わざとらしく角っこから飛び出したかと思えば、タイミングを合わせて櫻井くんにぶつかった。



「うーわ~、あれはないわ……ひどすぎない?あたしならもっとうまくやるのに!」



隣のゆっこは呆れたように落とした。

けれどあれくらいしないと相手にしてもらえないと知り尽くしているのだろう、ぶつかった女子生徒は。


それもそうだ。

今だって彼はぶつかられても無表情で傾きもせず、体勢を崩すこともなく、じっと見つめ続けたまま。



「あっ、えっと…櫻井くん…、怪我とかはしてない…?」



ふつう櫻井くんからそのセリフが言われるものだと思うのに…。


けれど何も言われなかったことに不安になってしまったんだろう。

今にも泣き出しそうになりながらも、仕掛けた女の子が心配しちゃって。



「だって、涼介。大丈夫?」


「「え、」」



その女の子と、涼介(りょうすけ)と呼ばれたいつも櫻井くんの横に必ずいる男の子の返事は綺麗に重なった。



「ぶつかったのギリギリ俺じゃないんで。涼介、怪我ない?」


「え、俺は、うん、別に全然」


「らしいです。んじゃ」