「僕たち、もう籍を入れて夫婦なんだよ?僕の苗字は華恋と同じ「花籠」になってる。……だから、名前を呼んで?」

異性を名前で呼んだことなど、あの日以来ない。華恋の心臓が別の意味で音を立てる。手に汗が滲み、お腹が少し痛む。名前を呼ぶ、それだけのことに緊張しているのだ。

『お前みたいな女が、気安く名前なんか呼ぶなや!』

異性と関わること、名前を呼ぶことが怖くなったのは、全部この呪いのせいである。不安と緊張に華恋は押し潰されそうになり、零の言葉が本当なのかまた疑おうとする。だが、華恋の心の一部はそれを「やめなさい!」と止めさせるのだ。

交際期間もなしにいきなり夫婦になった。そのことに今も華恋は戸惑っている。だが、零は華恋の嫌がるようなことも、傷付けるようなこともしてこない。少しスキンシップは激しくなったものの、唇を重ねたり夫婦の営みはない。そんな彼の優しさを疑うことなど、失礼にも程がある。

「……零、さん……」