この政略結婚に、甘い蜜を

ウェディングブーケを持つ華恋の手が震える。誓う以前に、零とは信頼も恋という感情すら抱いていない。ただこの場から逃げ出したい。遠くへ行かたい。そんな思いが華恋の胸の中に溢れていく。

だが、沈黙が続けば多くの人の視線が突き刺さる。隣からは心配そうな零からの視線が、互いの両親からは不安そうな視線が、参列者からはどうしたんだと言いたげな視線が、華恋一人に集中する。

「……誓います」

何とか、そう言うことができた。だが次に神父が言った言葉に、華恋は戸惑うことになる。

「では、誓いのキスを」

その言葉に、華恋の心臓は一瞬止まってしまったかのような感覚を覚える。神父から言われるまで、キスのことを忘れていたのだ。

「華恋」

煮詰めた砂糖を思わせるような甘い声で零が名前を呼び、華恋の体は神父の方から零の方へと向けられる。

ゆっくりとベールが上げられ、多くの人の視線が集まる。愛のない政略結婚だというのに、頬を赤く染めて華恋の頬に零は優しく触れている。すごい演技力だと華恋は頭の隅で思った。