この政略結婚に、甘い蜜を

行き交う女性たちが好き勝手にヒソヒソと話している。恋人ではなく、これから妻となる人間なのだが、華恋の心は何も感じなかった。過去に一番傷付いたせいか、あの時の言葉以外、心に傷を付けることも、留まることもなかったのだ。

「……こんなに可愛いのに、あんな風に好き勝手言って、めちゃくちゃムカつく」

何故か華恋より、「かっこいい」と褒めちぎられている零の方が怒っている。

「私にこんな可愛い服は似合いません。地味なままでいいので」

良くも悪くも目立つので、早く華恋はこの場から立ち去りたかった。だが零が華恋の手を掴み、おしゃれな店内へと入っていく。

「いらっしゃいませ〜」

おしゃれな店員が笑顔で言い、零は「試着室、お借りしますね」と言いながら華恋を押し込む。

「あ、あの……」

戸惑う華恋の目の前に、白いリボンのついたワンピースが映る。ニコニコと零は笑いながら、ブラウスやスカートなどを何着も手に持っていた。

「とりあえず、僕が持って来たものを全部着てみて。拒否権はないからね」