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「はぁ……」

 美桜が患者さんのバイタルをパソコンに打ち込んでいると、隣から大きな溜め息が聞きこえてきた。思わず手を止め、そちらに視線を移すと、福田が浮かない顔で机に突っ伏していた。

「福田さんどうしたの?」

「美桜さんは良いですよね。格好いい彼氏がいて……」

「急に何?」

「はぁ……美桜さん知ってたんですか?樋熊先生の素顔のこと」

「へ?正悟さんの素顔?」

「正悟さんとか呼んでるんですか!いいな~。まさか樋熊先生があんなに格好良かったなんて……さえない男性が実はイケメンとかマンガかよーー!!」

 福田が叫びながら頭を抱えるのを見て、美桜は笑った。

「美桜さん笑いごとではないですよ。はぁ~いいな。自分にしかデレない彼氏」

 自分にしかデレない彼氏?

 美桜が首を傾げると、福田がまた大きな溜め息を付いた。

「美桜さん気づいて無いんですか?樋熊先生が笑うのって美桜さんの前でだけですよ」

 えっ……。

 そんな事はないと思うけれど?

 患者さんと話しているときは……。

 あれ?

 あれれ?

 そう言えば笑って……無いかも……。

 そこへ噂の正悟がやって来た。

「福田さん、これ301の患者さんの検査データ」

「あっ、ありがとうございます」

 表情を変えずに正悟が福田に検査データを手渡すと、隣にいた美桜に視線を向け、フッと口角を上げた。

 その表情に美桜が頬を染めると、大きな手を美桜の頭に乗せ、ポンポンと軽く叩くと行ってしまった。

 その様子を隣で見ていた福田が叫んだ。

「リア充かよーー!!」