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 二日後、美桜が元気に日中の病棟で働いていると、そこに一人の少女がやって来た。

「美桜おねえちゃん」

 トコトコと走ってきたのは、三つ編みと笑顔が可愛い女の子だった。

「未来ちゃん、走ったらダメよ。心臓に負担がかかることはしちゃダメって、先生からも言われてるでしょう」

 美桜が注意したことで、未来(みらい)と呼んだ少女は「しゅん」っと肩を落とし、先ほどまで笑顔だった顔を、今にも泣き出しそうに歪めた。

「未来ちゃん、次から注意すれば良いんだから、そんな顔しないで……、ね。怒ってるわけじゃないからね」

 美桜の言葉に眉を寄せていた未来の顔が、パッと花が咲くような笑顔に変わった。コロコロと表情が変わる未来の可愛らしい顔に、心が温かくなる。

「うん。美桜お姉ちゃん走っちゃってごめんなさい」

 この子の名前は青木未来(あおきみらい)ちゃん。私が勤務する心臓外科病棟に入院してきてから、1年が過ぎようとしていた。未来ちゃんの病名は、生まれつき心臓の構造に異常があるエプスタイン症。エスプタイン症とは、心臓は全身に血液を送り出すポンプの役割があり、4つの異なる弁が血液の逆流を防ぐ役割をしています。しかしエプスタイン症は、その心臓にある4つの異なる弁が生まれつき悪く、血液が逆流してしまう病気なのです。