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 美桜は医局の扉の前までやって来た所で、一度大きく深呼吸し、扉に手を掛ける。すると部屋の中から男性2人の声が聞こえてきた。

「正悟はあの話し、美桜ちゃんにしたの?後で美桜ちゃんに知られたら、二人とも気まずい思いをするだけだよ。さっさと話した方が良いんじゃないの?」

「わかっている」

「だったらどうして、話ししないの?」

「お前には関係ないことだ。別に良いだろう」

 はぁー。と、マイクが大きく溜め息を付いたのが聞こえてきた。

 部屋から聞こえてきたのは、正悟とマイクの声だった。

 あの話しって……?

 聞き耳を立てていた美桜は、この後のマイクの言葉に驚愕する。

「美桜ちゃんの心臓は正悟の妹ちゃんのものなんだろう?」

 えっ……。

 私の心臓が、樋熊先生の妹さんのもの……?

 美桜は胸の前に手を置き、心臓の鼓動を確認した。

 この心臓が、樋熊先生の妹さんのものだって言うの……?




 美桜は頭の中が真っ白になった。 



 

 自分の胸に手を乗せ、瞳を閉じる。

 この心臓が、樋熊先生の妹さんの……心臓?




 そう言うことだったんだ……。 




 私の中に妹さんの心臓があったから、私を気に掛けていたって事……?

 樋熊先生は私を見ていたんじゃ無い。

 私を通して妹さんを見ていたんだ……。


 医局の扉の前で立ち尽くしていると、突然目の前の扉が開きマイクと鉢合わせしてしまった。美桜はマイクから視線を逸らしつつ、診断書を押しつけた。

「マイク先生。これ、樋熊先生に渡して下さい。では、失礼します」

 美桜はその場から脱兎の如く逃げ出した。