そんなコントの様な会話が続いた数分後。


「私の名前はマイク・トレイガーですね。ドイツからやって来ましたよ。正悟と同じ心臓のドクターやってるよ。よろしくお願いするね」

 流暢に日本語を話すマイクが、ナース達に向かってウインクをすると「キャーー」という悲鳴が上がった。

 まるで芸能人でもやって来たのかと言うほどの看護師達の様子を見つめながら、美桜は変な汗をかいていた。それというのも、現在美桜は正悟の腕に囲まれ、抱きしめられたままの状態でいたからだ。


 何なのよ。

 この状況は……誰か教えてよ。

 マイク先生から引き剥がされてからずっと、この状態なんですけど……?
 
 自分の置かれた状況が把握できず、美桜の背筋に冷たい汗が流れた。だって、みんなのこちらを見る視線が痛々しいんだよ。ニヤニヤしている人達も数人いるし……。こんなのカオス状態だよ。そんな美桜に向かってマイクがうれしそうにウインクをした。

「これからよろしくね。可愛い美桜」

 マイクがそう言うと、美桜を抱きしめていた正悟の腕に力が入る。正悟はマイクを敵意丸出しで睨みつけた。

 それは端から見たら、独占欲だとわかる正悟の態度だったのだが、当の本人である美桜はそれに全く気づいていなかった。