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 桜の花びらがひらひらと舞っている。薄いピンクの花びらがアスファルトを埋め尽くす。全てがピンクの世界は可愛らしい夢の国のようだ。さくらは薄いピンクが好きだったな。自分と同じ名前の桜色が大好きだった。

「さくら……」

 まるで愛おしい人の名前を呼ぶように、正悟はさくらの名を空に向かって呼びかけたその時、屋上の扉が開いた。そこには、あたふたとする美桜が立っていた。

「坂口さん?」

「あっ……いえ、その……。私……紬ちゃんに呼ばれていたのを忘れていたので戻ります」

 やや俯いている美桜の瞳が揺れているのに正悟は気づいた。

 一体どうしたんだ?

 泣いていた?

 声を掛ける門もなく美桜はその場から逃げ出す様に行ってしまった。それを視線で追いながら正悟は溜め息を付いた。