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 陽希の退院の日がやった来た。2回目の自殺未遂を行ったあの日、陽希は精神状態がまだ不安定だという理由から、退院が伸びていた。精神科の先生と相談した結果、児童相談所に一度報告した方が良いだろうと言うことになった。そして本日退院という日に案の定、陽希の母親はやってこなかった。その代わり児童相談所の職員が寄り添っていてくれていた。

 今後、陽希はとある施設から学校へ通い、来月全寮制の高校を受験する予定だと教えてくれた。母親が退院の日にやってこなくても、陽希の表情は晴れやかで、とても良い表情をしていた。

 この子は大丈夫、きちんと前を向いて行ける。

 誰もがそう思った。

「頑張ってね。ひなちゃん、いつでも病院に遊びに来て良いからね」

「美桜さんありがとうございます。紬にも会いたいので、またすぐに来ますね」

 美桜の言葉に陽希がうれしそうに微笑んだ。

 美桜の後ろで紬は悲しそうに陽希を見つめている。ひなちゃんが退院できてうれしいはずなのに、寂しくてしょうが無いといった様子の紬の背中を美桜は押した。

「ひなちゃん……退院おめでとう。……っ……紬のこと忘れないで……」

 涙を堪えながら話す紬に陽希が吹き出した。

「ぷっ……紬、私と美桜さんの話し聞いてた?紬に会いにすぐに来るって言ったんだけど?」

「でも、ここに来るの大変でしょう。ひなちゃんに無理させたくないよ」

「紬は私に来て欲しいの?来ないで欲しいの?どっちなの?」

「そんなの来て欲しいに決まってる!」

「そっか……良かった。私は無理なんかしないよ。この病院から施設まで結構近いし、今度受験する高校の寮も電車で一本だし、紬が心配することなんて何も無いんだよ」

「うん……つむぎ、待ってるから。ひなちゃんが遊びに来るの待ってるからね」  

 紬と陽希を見守っていた美桜が、我慢できないとばかりに、二人を抱きしめた。

「本当に二人とも良い子。私は二人が大好きよ」

 美桜の言葉と行動に、二人はキョトンとしてから笑い出した。