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 美桜は自分の中心にある大きな傷を見つめ、溜め息を付いた。

 相変わらず大きな傷……。

 この傷があるから私は誰も好きにはならないと決めた。

 恋をしても無駄だと……。

 私は20歳の時、初めての恋をした。

 同じ看護学校に通う一学年上の先輩で、先輩から告白されて付き合うことが出来たときには、世界がキラキラと輝いて見えた。生きていて本当に良かったと、心の底からそう思った。付き合い始めて半年が過ぎ、初めてのお泊まりの日の夜、ベッドに横たわる私のブラースのボタンを外した彼の手がピタリと止まった。体の中心にある大きな傷に息を呑む彼の声にならない声が聞こえた。蒼い顔をした彼は逃げるように部屋から飛び出していった。あまりにも、あっという間の出来事に、傷についての説明をすることも出来なかった。こうなる前に話をしておけば良かったと後悔した。

 私は怖かった。

 この傷のことを知っても、彼が私を見てくれるのか、それとも去ってしまうのか、考えるのが怖くて今日まで来てしまった。

 私は思っていた。

 この傷があっても愛があれば大丈夫だと、看護の道を目指している彼は傷ごと私を愛してくれると……まさか、傷を見た途端、何も言わずに飛び出して行ってしまうとは思わなかった。私の話ぐらい聞いてほしかった。

 今思えば、もっと早く彼に病気のことや、傷の話をしておけば良かったのにそれをしなかった。それは私のミスだ。21歳の男子があんな傷を突然見せられて引かないわけが無い。それから彼とは自然消滅してしまった。

 あれから6年、美桜はもう恋をしないと決めていたのに……。