懸命に命を救おうとしている先生や看護師の姿に、二人は声をかけることをしなかった。冷静に状況を確認するのに……必死だったのだろう。

「先生、ご家族見えたので心マ変わります」

 美桜は高津先生から心臓マッサージを変わり、心臓マッサージを開始する。しかし大島さんの心臓は自ら動こうとはしない。高津は大島さんの奥さんと娘の方へと、息を切らしながら近づいていった。

「大島さんのご家族ですね?以前申し上げたとおり……手を施したのですが……心臓が止まってから20分以上が経過しています。このまま心臓マッサージや処置を続けても、心臓が再び動き出す可能性は無いと考えます」

 大島さんの娘は必死に涙を堪えながら、しっかりと高津を見つめ説明を聞き終えると答えた。

「先生ありがとうございました。もう、これ以上は……父も望んではいませんでしたから……っ……」

 それを聞いた高津は看護師の方へと視線を向けると頷いた。私達はその視線で全てを理解する。美桜は心臓マッサージを辞めて、大島さんの胸に乗せられていた手をそっと離した。

 人の命とはなんて、はかない物なのだろう。私が手を止めたことで、心臓が血液を運ぶことを辞め、体から生気が失われ、どんどん蒼白く変わっていく。

 心臓マッサージを終えた美桜の口から、ハァッハァッと荒い呼吸が漏れる。

 チラリと見たモニターには、先ほどと変わらず、心臓が停止した事を示す、一本線だけが表示されていた。

 高津が死亡確認を開始する。心モニターを見つめ心臓が動いていないことを確認し、大島さんの瞼を開くとライトを使って瞳孔の確認をした。対抗反射がなく瞳孔の収縮がない。

「3時25分ご臨終です」

 大島さんの奥さんと娘さんの、すすり泣く声が、静かに病室に響いた。