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『お兄ちゃんは無駄にイケメンボイスだよね』

『さくらお前はまた、そう言うことを言って』

『だって、ホントの事じゃん』


 楽しそうに笑う少女に向かって、青年が目を細めこちらを見つめていた。


 違うよ……私はさくらじゃないよ。

 みおう……美桜だよ。


 はっ……美桜は閉じていた瞳を開き目を覚ました。

 カーテンの隙間から朝日が差し込み、今が朝だということを告げている。美桜はゆっくりとベッドから起き上がるとカーテンを開けた。冬から少しずつ春へと変化してきた太陽のまぶしさに、目を細める。

 それにしても先ほどの夢は何だったのだろう。

 やけにリアリティーがあって……まるで自分が体験したような出来事だった。


 『お兄ちゃん』その声がまだ耳に残っている。それにお兄ちゃんと呼ばれた青年の声……樋熊先生みたいに心に響く優しい声だった。

「お兄ちゃん」

 そう、声に出してみるが、やはり夢で聞いた声と自分の声は違う物だった。それに美桜は一人っ子だから兄弟はいない。しかし、『お兄ちゃん』を思い胸が温かくなった。美桜は会ったことの無い兄に、思いを馳せた。