「アドレナリン静注!!」

 高津先生が少し大きな声で叫んだ。

「はい」

 美桜はアドレナリンのアンプルを割り、注射器を使って中の液体を吸い点滴の側管からフラッシュ……一気に流し込んだ。

 動き出さない心臓。

 大島さん頑張って……。美桜は心の中で叫ぶ。


 心臓が動きを再開する様子が無いことをモニターで確認した高津先生が、大島さんの胸の上に両手を乗せ、心臓マッサージを開始する。すると高津が全体重かけたため、ベッドがギシギシと音をたててきしんだ。

「大島さん聞こえますか?ご家族がもうすぐ来ますよ。戻ってきて下さい」

 高津先生が大島さんに心臓マッサージを施しながら声をかける。心臓マッサージは見た目以上に体力を奪われる。あっという間に高津の息は切れ、額に汗がにじんでいく。

 それからしばらくして、バタバタと廊下を走る数名の足音が聞こえてきた。

「お父さん!」

 大島さんの奥さんと、娘が病室に飛び込んできた。
 
 病室に高津の声とベッドのきしむ音、それからアラームの異常音が響く、その緊迫した状況に二人はすぐに理解した。自分の夫と父親の状況を……。