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 かつて私の家族も紬の家族と同じように、ごく普通の幸せな家族だったと思う。そんな家族の間に亀裂が入ったのは、紬と同じ私が10歳の時だった。父が家を出て行ってしまったから……。どうやら父は浮気をしていたらしく、浮気相手に子供が出来たからと、私達は父に捨てられた。

 それでも私には、母がいたから平気だった。しかしは母違ったのだ……悲しくて、寂しくて、男に逃げた。私がいるというのに、家に帰って来ない日が続いた。母のこの行動はいわゆるネグレクトというものだとわかったのは、1年が経ってからだった。それでも、お金だけは置いていってくれるため、食べる物に困ることは無かったが、腹が満たされても、心が満たされることは無かった。

 それから2年が過ぎ、陽希が13歳になった時、母親が再婚した。恋人との間に子供が出来たのだ。陽希にとっては義妹となるその子を可愛がろうとしたが、母がそれを許さなかった。義父は私には関心が無く、母も私を見ることはない。同じ家の中にいるというのに私は透明人間だった。自分の居場所が見つからず、狭い物置部屋に膝を抱えて座る。電気をつけることも許されず、暗い部屋の中で、息を吸う音さえもうるさいと、罵倒される状況下で陽希は2年の月日を過ごした。

 
 両親の愛を一身に受け、義妹はすくすくと成長していく。

 可愛がられるのは義妹ばかり……。 


 私は此処にいてはいけない人間。

 私はいらない人間。

 私は存在してはいけない人間。

 存在しない人間。
 
 人としての存在意義が分からなくなった。

 

 こんな思いをするならと、私は自分の感情をコントロールすることを覚えた。そして、私の中から感情が消えたんだ。