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 紬の嬉しそうな顔と母親の表情に、陽希は目を背けた。

 とんだ茶番だな。
  
 陽希の心に、黒い靄のような物が広がり、ドス黒い感情で体が支配されていく。

 反吐が出る。

 あまりの嫌悪感に二人の顔を見ていられない。

 陽希は二人から顔を背けると、何も言わずに部屋から飛び出した。

「あっ……ひなちゃん」

 後ろから紬の声が聞こえてきたが、それを無視した。今振り返って口を開けば、きっと紬を傷つける言葉を吐いてしまう。

 紬を傷つけたくない。

 紬の部屋を飛び出して向かった先は、病院の屋上だった。ドス黒く染まった心が太陽の光を浴びることによって、少しでも洗われるにではないかと考えたからだ。しかし、太陽の光を浴びても何も変わらない。ドス黒い感情は増すばかり。


 もう嫌だ、助けて……。