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 少しずつ、陽希と紬の会話が増えていったある日。

「最近陽希ちゃんと仲良くしているんだって?」

「うん!」

 うれしそうに返事をする紬の笑顔に、美桜もつられて笑顔になった。

「そっか、良かったね。二人でどんな話をしたりするの?」

「んーとね……あれ?そういえば紬ばっかり話してるな?」

 首を捻る紬を見て、美桜が吹き出した。

「ぷっ……そっか。でも、話は聞いてくれるんだよね。良かったね」

「うん。今度紬の部屋にも遊びに来てくれるって、約束したんだ」

 初めこそ紬を無視し続けていた陽希だったが、無邪気で明るい紬につられるようにして少しずつ心を開いていった。

 紬も、唯人という拠り所を無くしてしまったため、ずっと精神状態が不安定だった。いつも元気で、屈託の無い紬が、急に喋らなくなったり、泣き出したりすることがあったが、陽希と出会い気持ちに変化があったようだった。

 陽希にも紬にもそういった、新しい友達が必要だったのかもしれない。それでも、陽希は外科病棟で必要最低限の言葉以外話さないらしい。紬以外には心を開く様子が無い。そんな娘を心配する様子が無い母親は、見舞いにも来ないと聞いた。どうやら陽希の家庭は複雑のようで、母親が来院したのは入院した初日のみ。人の家族の事に口出しすることは出来ないため、美桜は傍観することしか出来ないが、何かしてやりたいと思ってしまう。