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 病院の渡り廊下に、大人びた少女陽希が立っていた。無造作に伸ばしたままの癖の無いロングの黒髪が子供の割に大人っぽさを演出している。14歳だと言う陽希は同世代の子供より落ち着いていて、あまり喋らない。そして、瞳の奥底にある仄暗さが、子供とは思えないほど達観しているように見えた。

 何かを諦めている。そう思わせる瞳で陽希は外を眺めていた。 

 そんな陽希に紬は今日も果敢に挑む。

「ひなきおねえちゃん。何してるの?外面白い?」

「…………」

「早く暖かくなると良いね」

「…………」

 二人の会話はほとんど無い。それでも勇者紬は諦めない。そんな日が続いたある日、とうとう陽希が折れた。

「はぁーー。あんた、よく毎日毎日飽きもせず話しかけてくるわね」

「…………」

 驚いた紬が今度は無言になってしまった。

「何?今度はあんたがだんまりなわけ?」

「あっ……違うよ。うれしくて。後、私は紬だよ。つ・む・ぎ」

「あっ、そう」

 素っ気ない返事をすると、陽希は行ってしまった。

 それでも紬は陽希が話をしてくれたことが、うれしかったらしく、その場でピョンピョンと跳びはねた。