外を眺めている少女は思い詰めたような様子で、何だか気になってしまう。

 声を掛けるべきだろうか?

 美桜が少女に近づき声を掛けようとして所で、後ろから誰かに声を掛けられた。

「美桜おねえちゃん」

 ひぇっ。

 声には出さなかった物の、ビクリと体を跳ねさせながら後ろを振り返ると、そこには紬ちゃんが立っていた。

 紬は唯人が亡くなってから、しばらく部屋から出てこなかった。ずっと兄のように慕っていた唯人が亡くなって、悲しいのは当たり前だ。それに、唯人が同じ病気で亡くなったことも、ショックが大きかったのだろう。小さな体で、沢山の事を考えて、やっと最近部屋から出られるようになった。紬は元々ポジティブな性格だ。下を向いているより、前を向いて行くことを選んだのだろう。

「美桜おねえちゃんどうしたの?あれ?そこにいるおねえちゃんは誰?」

「ええっと……」

 どうしたらよいのか悩む美桜をよそに、紬ちゃんは少女に声を掛けていた。

「こんにちは。私は紬だよ。おねえちゃんお名前は?」

「…………」

 無視だ。

 外を見たまま口を開かない少女に向かって、紬がもう一度声を掛ける。

「こんにちは。私は紬だよ。おねえちゃんお名前は?」

「…………」

 紬の言葉を無視し続ける少女に負けじとばかりに、もう一度話し掛けようとする紬だったが、その口を美桜が両手で押さえた。

「ふご……ん、ぐ……」

 紬は美桜に口を押さえられたまま変な声を出した。

「紬ちゃん、ちょっと静かにしていて」

 紬の耳元でそっと囁くと、紬はコクコクと首を上下に振った。それを確認した美桜は目の前の少女に話しかける。

「こんにちは。私は心臓外科病棟の看護師で、坂口美桜です。あなたのお名前は?」

 少女は年上で看護師の美桜の問いかけに、仕方が無いとばかりに小さく溜め息を付くと、その重たい口を開いた。

「原陽希(はらひなき)」

「おねえちゃん、ひなきちゃんて言うんだ。かわいい名前」

「…………」

 うわーー。

 また無視されてる……。

 美桜が青くなりながら紬と陽希の様子を見守っていると、紬はそれを気にした様子も無く陽希に声をかけ続ける。

「ひなきちゃん今度一緒に遊ぼうよ。紬はいつも心臓外科病棟の談話室にいるから遊びに来てね」

「…………」

 無視され続ける紬だが、ひるむ様子はない。負けじと話を続ける紬。

 すごい。

 すごいよ。

 心のメンタル、チート級だよ。

 紬ちゃん。君に、この病院の勇者の称号を与えるよ。

 今日から君は勇者紬だよ。

 美桜は心の中で紬に拍手した。