ヒクヒクと泣き続ける子供達が、美桜の後ろに隠れるようにして、正悟を見つめている。そんな子供達を怖がらせないように正悟が、ゆっくりと近づこうしたのだが、全員が一歩ずつ後ずさっていく。一番前で子供達を守る美桜さえも、じりじりと歩み寄って来る正悟を警戒し、後ろに後ずさってしまった。

 美桜の身長は148センチと小さく、子供達の気持ちがよくわかる。目の前で190センチ以上の大きな男に詰め寄られれば確かに怖い。しかもボサボサの髪に無精ひげをはやし、ヨレヨレのジャージ姿の得体の知れない男が近寄ってくれば、思わず熊と叫んでしまう子供達の気持ちはわかる。

「樋熊先生、何をやっているんですか。子供達を怖がらせないで下さい。発作でも起こしたらどうするんですか!」

「診察を……」

 美桜の言葉にたじろぎながら正悟が口を開くが、その言葉を美桜が遮る。

「診察なら白衣を着て下さい。白衣はどうしたんですか?」

「…………」

「『……………』じゃ、ないですよ。何で何も言わないんですか!」

「白衣……忘れた」

「白衣をどうやったら忘れるんですか。すぐに着てきて下さい」

「……診察」

「白衣を着るのが先です!」

 美桜と正悟のやりとりを聞いていたスタッフ達は、始めこそ驚いた様子だったが、生き生きと話す美桜と、口数の少ない正悟を微笑ましそうに見つめていた。