* 番外編1 *


「お母さん、早く早く」

 自分の前を走る息子を心配しながら、母親だと思われる女性が追いかけたいた。更にその後ろを心配しながら走る男性の姿があった。


「美桜!走ったらダメだ」

 そう言いながら、正悟が珍しく焦った様子で美桜を追いかけていた。

「でも、正悟さん、蒼が……」

「俺が追いかけるから、美桜は桜子を頼む」

そう言って、桜子の手を離し、蒼(そう)を追いかける正悟。

 正悟と手を繋いでいた桜子(さくらこ)は、母親である美桜と手を繋ぎながら、にっこりと笑った。


「にぃーに行っちゃったね」

 我が息子、蒼が楽しそうに走っているのを目で追いかけながら、微笑んだ。

「蒼は今日も元気いっぱいね。平和だ」

 その時元気に走り回り、正悟と追いかけっこ状態になっていた蒼が転んだ。

 あっ……転んだ。

 少し離れているが、ここまで泣き声が聞こえてくる。転んだ蒼を抱き上げた正悟が走ってきた。

 
「美桜すまん。蒼の膝から血が出てしまった」 

「蒼は元気ね。こんなちょっとの傷、大丈夫よ。ほら泣き止んで」

 それでも蒼は「痛い、痛い」と泣きながら、正悟に抱っこされたまま泣いている。

「お兄ちゃん、そんな事では桜子にも、赤ちゃんに笑われちゃうわよ。いいの?」

 そう言うと蒼はパッと顔を上げ、手の甲で涙をゴシゴシと拭き取り、泣くのを我慢した。

 その表情がなんとも可愛らしくて、美桜は笑いを堪えるのに必死になった。

「さっすがお兄ちゃん!!」

 美桜がそう言うと「へへへっ」と、得意げに笑う蒼。

 そんな我が息子を見つめながら、美桜と正悟は笑った。