風で桜の花びらがひらひらと舞う美しく幻想的な中で、正悟が真剣な瞳で美桜を見つめた。

「美桜……俺はお前を一生離してやれそうにない」

 ???

 正悟の言葉の意味がわからず、美月が呆気にとられていと正悟が話を続けてきた。
 
「分からないか?俺はこの後の人生を美桜と共に歩んでしきたいんだ。俺はこんな仕事だから、家にいる時間も少なくて、寂しい思いをさせてしまうこともあるかもしれないが、一生美桜を大切にすると誓う。だから俺と結婚して欲しい」

 正悟はそう言って、ポケットから小さな箱を取り出し開くと、それを私の前に差し出した。日の光を浴びて、箱の中の指輪がキラリと光り、その指輪の上に桜の花びらが落ちた。まるでさくらさんが背中を押してくれたような気がした。

「正悟さん……うれしいです。それ、付けてもらっても良いですか?」

 美桜の答えにホッとしたような表情を見せた正悟が、指輪を手に取り美桜の左手の薬指にはめたのだが……。

「ちょっと……大きいですね?」

「すっ……すまん。サイズが分からず、店員と相談して調節しやすいサイズにしてもらったのだが、こんなに細いとは」

 ゆるゆるの指輪を見た正悟がやってしまったと、顔を青ざめさせている。あまり見られない正悟の表情が新鮮でうれしくなった。

「正悟さん、これも良い思い出になりますね」

 そう言って美桜が笑うと、頭をガシガシとかきながら正悟も笑った。その様子を回りで見守っていた見知らぬ人々から歓声が上がる。

「よっ、兄ちゃんやるじゃねえか。おめでとう!」

「桜の下でのプロポーズ最高です。おめでとう」

「おめでとうございます」

 散歩を楽しんでいた人々の口から、祝福の言葉が飛んでくる。

 美桜と正悟はそれに答えるように頭を下げると、沢山の人達から温かい拍手をもらい微笑みあった。



 そしてこの場所は恋人達の名所となった。

 それは……。

 桜の咲く季節、この場所で告白すると幸せになれるとか、なんとか。





 ここからまた、見知らぬ恋人達の物語が始まる。




        

 
      * fin *