美桜は可愛らしく笑う未来の頭を優しく撫でながら、もう一度注意を促した。

「心臓に負担をかけてはダメよ。苦しくなったら、すぐに教えてね」

「うん。わかってるよ。美桜おねえちゃん」

 未来は手を振りながら、談話室の方へと向かって歩いて行った。これから午前の勉強が、談話室で始まるからだ。

 未来は、美桜のことを『美桜おねえちゃん』と呼んでいる。未来以外の子供達も、美桜のことを『美桜おねえちゃん』と呼んでいるのだが、それはこの病棟に坂口という私と同じ苗字の人間が2人いるからで、そんな中でも一番に慕ってくれているのが、未来ちゃんだった。患者一人に対し、特別扱いをしてはいけないのだが、美桜にとって妹のような存在となっていた。

 その時、談話室の方から悲鳴が聞こえてきた。

「キャーーッ」

 えっ……?

 悲鳴と共に聞こえてくる子供達の声。美桜は廊下を走り談話室に急いだ。そこで目にしたのは横たわる未来の姿。ハアッハアッと呼吸を繰り返し、額に汗が浮かび上がっている。