「俐桜!りーお!」


後ろから呼ばれた。


耳からイヤホンを外して振り返る。


抱きついて来たのは親友の三島 亜月。


おはよ!と挨拶すると笑顔が返ってくる。


「早すぎ、お前」


走ってきた亜月の後から来たのは櫻葉 彗。


「すぅ、おはよ」


彗は去年同じクラスで席が隣になってから仲良くなった。


今では毎日一緒にいる。


あづとすぅは方面が一緒だから同じ電車だったら一緒に登校してくるらしい。


私だけ反対方面に住んでるのが悔しい。


「今日、ダンスだ!」


あづが嬉しそうに言った。


そうだ、今日はダンスの授業がある日だった


振り付けは殆ど決まっていた


「そろそろ発表だっけ?」


すぅはスマホのスケジュール帳を見て言う。


「今月末だよね」


病院で検査がある前日だったのを覚えてる。


「俺のグループ全然決まってないんだよな」


すぅは髪をグシャっとした。


ダンス経験者のすぅは皆のレベルに合わせた曲と振り付けを考えるのに手こずってるみたいだった。


私たちのグループなんて好きな曲にそれっぽい振り付けを簡単につけて完成してる。


「あたしたち、あとは覚えるだけだもんね!」


あづと私は同じグループ。


「あづ、覚えるの苦手なんだからそこが大変じゃんよ」


私がつつくとあづが大笑いした。


「そうだった!彗のグループに追い抜かれないようにしないと」


きっと2人で練習しないとあづは駄目そうだなあ


暗記と覚えるのが苦手なあづ。


勉強はもっぱら理数系で歴史とか暗記科目はいつも他の教科に比べて点数が低い。


私は記憶力ばっかり良いから数学とか計算系が大の苦手。


「そういえば今日、転校生来るらしいよ?」


あづの言葉に2人で不思議そうにする。


この時期に転校かあ、5月の中旬なのに。


「あと2ヶ月くらい早ければ良かったのにね」


そしたら新学期に合わせて転校出来るし、皆が友だちをつくるタイミングと合う。


私たちの学校はひと学年8クラスあるから同じクラスじゃない子は殆ど分からない。


全校で集まったり学年で集まった時に初めて見かける子も少なくない。


それは3年生になっても同じらしく先輩も"全然分かんないよ〜"って笑ってた。


卒業式まで名前さえ知らない子もいると思う。


「あたしは女の子がいいなっ!」


あづはニコニコしながら言った。


「同じクラスになる気がする」


あづは自信満々にそう言った。


何処からそんな自信がくるかは分からないけどあづの勘は結構当たる事が多い。


今回もそうかもしれない。


なんとなくそう思った。


教室に入ると皆ソワソワしている。


多分、転校生が来る事を知ってだろう。


「俐桜たち!おはよー」


席が近い芽郁が手をヒラヒラと振った。


「男子らしいよ!」


興奮気味に言う芽郁。


そして、私の腕を引っ張り"しかもイケメン"と付け足した。


「まじ?!目の保養になるじゃん」


あづは嬉しそうに笑う。


どうしてだか私はあんまり転校生というワードに惹かれない。


いつもならどんな子が来るか予想するのに。


期限が決められてると何事も感情が追いついてこないらしい。


私も卒業前には転校といって入院する。


皆に余計な心配はかけたくない。


それに弱っていく自分を見られるのが嫌だった。


席つけ〜!と言いながら教室に入ってくる担任。


どうやら1人らしい。


しかし、教卓に立つとすぐ手招きした。


「転校生を紹介する」


その言葉に合わせて教室に入ってきた男の子。


女子は一気にザワザワする。


その中性的な顔はいかにも女子が好きそうな顔だった。


不思議な雰囲気を持った彼はニコリともせず担任の横に立った。


「有住 光くんだ」


ペコリと会釈する彼は前から空いていた席を指定され座った。


「光くんだって〜名前もカッコイイね」


芽郁は私を振り返り幸せそうな顔をする。


黒板に書かれた彼の名前を見つめた。


綺麗な名前だなと思った。


光くんとは対角線の席にいるため離れている。


きっと彼と話す事はなさそうだ。


勝手にそう感じて担任に視線を戻した。