一頻りに泣き喚いた後、泣き疲れたのか眠りについた。無残に切りつられた手首は皮膚が少し盛り上がっている。血はもう止まっているようで消毒して包帯を巻く。

 そのまま俺も眠ってしまったようで、目を覚ますと彼女はまだ眠っていた。眠る彼女の顔を濡れたタオルでそっと拭いた。

「…ん」と少しの漏れた声と共に起きた彼女は俺の顔を見て、「なんで?」とかすれた声で言った。

 「おはよう」
 「…うん」

 「覚えてる?」
 「…え?」

 彼女は少し考えた後にハッとして、ギロっと睨んだ。


「何があったの?」

 彼女の睨みを無視して、頬を撫でて丸くて大きなを目を見つめる。彼女は次第に弱々しくなり、俯いて何も言わなくなってしまった。


「なんか飲む?」

 そう言うと、彼女は弱々しく首を横に振り立ち上がると、ふらっとよろけて倒れ込んだ。それをしっかり受け止めて水だけでも飲むようにと促す。


 ちょっと待っててと水を持って彼女の近くに座った。飲めるか聞いても何も言わないので、俺は自分の口に水を含んで強引に彼女の口に押し付けた。

 やっとのことで、水を飲めた彼女は俺の服をギュッと掴んで、こちらに倒れ込んできた。それを抱きとめて、頭をポンポンと撫でた。


「親、いつ帰ってくるの?」

しばらく時間が経ってから聞くと、今日は来ないだろうと言ったので、そっかとだけ言った。


 彼女は何も話さなかった。俺も何も聞かなかった。 
 何が問題で壊れるのか分かっている。具体的には何かは分からない。
 
 彼女も俺も、あの金曜日の玉ねぎのように『あたり』だ。