俺は、暇さえあれば保健室に来て、先生が手当てをしているところを観察したり、時には手伝ったりしていた。怪我の手当てをしたり看病する事が好きで、将来はそういう仕事をしたいと思っている。

 俺の見た目や言動が怖いらしく、周りからは、ありえないとか思われていそうだけど。

「すぐ戻るから、ちょっと保健室にいて貰える?」
 保健室から先生がいなくなり、俺はひとりになった。
 ぼんやりしていると、ひとりの女の子が入ってきた。
  
 ーーあ、あの子だ。

 学年がひとつ下の女の子。去年の春、高校二年生になったばかりの頃だった。廊下ですれ違う時、彼女の肩に俺の肩がぶつかってしまった。

「ご、ごめんなさい……」

 彼女はすごく怯えた顔をして謝ってきた。ぶつかってしまった時、どちらかといえば、よそ見をしながら歩いていた俺の方が悪いのに。俺も謝ろうとした時には、目の前に彼女はいなかった。結局謝りそびれた。あの時の怯えた顔が頭に残っている。それに、なんか小さい頃、接したことある気がするんだよなぁ。そんなことを、すれ違うたびに毎回考えながら、彼女を目で追っていた。



 保健室に入ってきた彼女は青白い顔をしていて辛そうだった。

「どうしたの?」
「頭が痛くて、少し休んでいこうかと」
「大丈夫?」
「あ、はい……」
 大丈夫そうじゃなく見える。しかも、俺の事を怖がっている。ここから出ていった方が良いのかなぁ? でも心配。

 とりあえず、彼女の頭をぽんぽんしながら「なおれー、なおれー……」と、おまじないをかけた。これは、身体の弱い妹が小さい頃に体調をくずした時、毎回やっていたこと。こうすることによって、悪い気が俺の方にきて、早く治ってくれる、そんな気がしていた。こんな事、友達の前でとか絶対にやらないな……。いつもと違う!ってなって心配されそうだ。

 彼女は、はっとした顔をして、一瞬目を合わせた後、顔を赤らめてうつむいた。