指先から溢れるほどの愛を


「よし、完成」


そう言われて鏡を見れば、そこに映るのはナチュラルなメイクのはずなのに、さっきまでとは印象の違う自分。

もちろんガラッと変わった訳ではない。

昔からショートボブで身長156センチ、凹凸のない身体に童顔の私は20歳を過ぎた今でもどちらかというと少年っぽさが残り、自分で言うのも悲しいけれど女っぽさがあまりない。

それなのに今鏡に映る自分はどうしたことだろう。なけなしの女っぽさが彼によって引き出されたかのようだ。

この人は、この短時間で一体どんな魔法を使ったのだろう。


「う……わ、すごい……」

「ま、一応プロなんで」


その時鏡越しに戯ける彼と目が合って、なぜか胸がとくん、と音を立てた。


「さ、急がないと。あんまギリギリになっても心象良くないだろ?」

「あ、あの!本当にありがとうございました!何とお礼を言ったらいいか……」


ケープを脱がされながら心からのお礼を伝える。


「礼はいいから。ほら」


手を引かれ立ち上がり、彼が取って来てくれたジャケットを着せられ、まだ肩口に水の染みが少し残るコートとバッグを受け取る。