指先から溢れるほどの愛を


しかしこの状況は本当に一体何なんだろう。

静かなエンジン音と振動が心地良い車内には、FMラジオから流れて来るDJの軽快なトークだけが控えめに響いている。

こんなのまるでデートみたいで距離感が上手く掴めない。

お店の中ではいつでも美容師とお客というポジションが確立しているから、私が坂崎さんのことを好きだと自覚してからも距離感に困ることはなかった。

ところが一歩お店の外へ出てこの状況になった今、今日の私のこのポジションは一体何なのか、途端に距離の取り方がわからなくなってしまったのだ。

そもそも恵麻ちゃんの誘いは断ったくせに私のことを誘ってみたり、あんな近い距離でわざと耳元で囁いて"ドキドキした?"とか言ってみたり、それもこれもこの前の坂崎さんの距離感がおかしかったせいだ!


「何か、さっきからミーコが借りてきたネコみたいなんだけど」


車に乗せられてからうんともすんとも言わない私を、坂崎さんがチラリと見て面白そうに笑う。

坂崎さんの格好良さに当てられているのと緊張のせいで、いつもの調子が全然出ていない自覚はもちろんある。